牟礼岡・裏山の霊

murekaze

2006年11月07日 16:53



■「牟礼岡・裏山の霊」 記録日 05/08/29

 今日は、犬との毎朝の散歩コースを少し変更して、牟礼岡団地の西側に有る小高い岡に登った。いつもの様にAM5:30に家を出てから、西の方へと歩きはじめた。団地のはずれまでアスファルトの道路を歩いたあと、平屋建ての一軒家の横から繋がる山道に入ると、砂利敷きで車が一台通れる程度の林道になっている。そこから犬の首輪の紐を外してやった。

 グレイスにとっては初めて通る道なので、興奮してはしゃぎまわりながら、後になったり前になったりして付いてきた。暫らく歩くと森の中を抜け、見晴らしが利く場所まで出た。車の転回場所のように広くなったところが有り、その先は車も当分通った事が無い様で、萱や雑草が覆い被さっている。そこから先はゆるい下り坂になっていて、先に進もうと思えば行けそうだったが、今日のところはすぐ左手のこんもりと小高い岡に登りたかったので、登山道らしい道の痕跡を見つけて、所々萱に覆われた藪の中に分け入った。

 確かに道の跡ではあるが、ここも当分人が通った気配が無い。少し急な登り坂に成っていて、背の高い萱と茨が覆い被さり、擦り傷覚悟で掻き分けて進んだ。
グレイスはと言うと、足元の低いところは意外と隙間があり、さっさと先に上っていく。「おいおい待ってくれよ!」と言いながら、息を切らせて岡の頂上を目指した。

 この山は、何年も前に雑木林を伐採したらしく、丈の高い樹木は生えていない。背丈ほどの萱と、所々残っていた木の株から芽を出して育ったと思われる広葉樹の細い幹が、すっと伸びて葉を付けている。タラノ木やヤマウルシ等もその中には有る。

 イヌビワの木が赤から紫紺へと変わりつつある実を付けていた。イヌビワは、クワノ木科の低木で、イチジクの仲間であり、小さなイチジクのような実を付ける。犬が好んで食べるので、この名前が付いたのだろうと思う。勿論グレイスも好物で、夏場の間は散歩の途中の楽しみとしていた。

 さて、ようやく頂上が近づいてきた時、突然登山道らしき道が無くなってしまった。折角此処まで来たのだからと思い、何とかして頂上からの眺めを見てみたいという一心で、無理やりさらに深い草むらに分け入ってみた。そこは足元も悪く岩もゴツゴツしていて、前に進むのもなかなか容易ではない。流石に頂上からの眺めは諦めて引き返す事にした。

 そこでふとグレイスがいない事に気が付いた。まさか遠くには行っていないだろうと思い、名前を呼んだり口笛を吹いたりして呼んでみたが、物音一つしない。さては私を見失ったので、先に登り口まで降りたんだろうと思い、来た道を名前を呼びながら引き返し、林道まで降りて待つ事にした。

 ところが、林道で待つ事小半時。グレイスが降りてこない。まさか犬がこれ位の山で迷子になる筈は無いと思い、一人で家に帰ったんだろうと思い直して、急いで帰宅してみることにした。自宅に帰り着くと、グレイスはまだ帰っていないと言うではないか。これはまずい!と早速車を飛ばして現地捜索に出かけた。

 すぐさま林道の入口まで到着し車ごと入り込んだところ、林道の奥の方から、グレイスがとぼとぼと歩いてくる姿が見えた。「無事だったか!良かったなあグレイス」と言いながら、朝露でずぶぬれになったグレイスを抱きかかえ、車に乗せてやった。心なしか体が少し震えていた。

 どうやら、私とはぐれてしまったあとは、山道をあちこち歩きまわったらしく、体中が泥や芥で汚れていた。何とか林道までは遅れて降りてきて、既に私がいなかったので、林道を行ったり来たりしながら私を探していたらしい。初めての迷子の経験で驚いたのか、タオルで体を拭いて遣っても、ぶるぶるふるえながら今来た林道の奥を見つめていた。山の中で、もののけの霊に出遭ったのかもしれないと思った。

《参考》

 「牟礼岡の風車」 http://sanshin-home.jp/sanshin/mureoka-fuusya.htm

 「あべ木川」 http://sanshin-home.jp/sanshin/abeki-kawa.htm

 「M高原・夏の朝」 http://sanshin-home.jp/sanshin/murekougen.htm


関連記事